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好奇心の発露


by shes_inn
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トウキョウソナタ

黒沢清監督
ホラー、あんまり映画では好きじゃなくって。さんざんキング読むくせにね。
怖いの弱くて・・・。ほとんど観ていません。
でも、今回の黒澤監督の作品は、家族を描いた映画。
試写会に行ってきました。ちょっとあとになりますが、単館で、東京だと、恵比寿ガーデンシネマほかで上演されます。カンヌで評判よかったみたいです。

ちょっと時間ができたので、デスクに座ってられなくてとっとと外出してきた次第。
こういう時間、ここのところまったく取れなかった。
以前はね。何かとこういう時間を無理くり作っては、書店巡りしたり、試写会行ったり、CD屋さんに行ったり、人にあったりしてアンテナ立ててましたが。近年本当にパソコンにへばりつくことが増えて、精神衛生上悪いったらありゃしない。

ここからは、ネタバレですので、観る予定のない方は、お読みください。

で、映画は、けっこうリアルで、不幸のタネみたいな出来事が次々に出てくるある意味、怖い映画。(なんだけど、ちょっと舵を別に取るともっとコメディになり得たな、絶対)
リストラ、職なしのあわれな父さん(家族には本当のことが言えない、権威にこだわる弱い男)、家族は自分のことばっかで、振り向いてもらえず、家を守るも、家族はそれぞれバラバラで、じっとりと耐えるお母さん、せっかく大学まで通っているのに、自分の身の置き所がなく、何も展望が描けず、アメリカで軍に入るばか息子兄、小学生だけど担任の先生は、先生とは言えないへったらむかつく先生で・・・、の弟。
明るい目があるとしたら、弟君だけ?

まあ、そんなバラバラな毎日の中で、ある日、家族3人がバラバラに、それぞれがとんでもない目に遭い(兄ちゃんは、もう家は出ているので)、家以外の場所で夜を明かす。

まあ、出演者の演技は、たいしたもので、どなたも素晴らしいので、言うことはない.

そんななかで、監督の映像作りが、見えるものを映さず見ている人を映しているのが面白かった。映さずに観客に見せる手腕というのかな。

小泉今日子が誘拐され?月夜の海岸で見る美しいもの。朝日が彼女に向かい開けて行くのを見る彼女の姿。月は映さず、月の光が当たる海を映し、太陽は映さず、太陽が当たる彼女を映す。秀逸な映像だと思った。

最後は、なんだろ、音楽の力。
弟君の弾くピアノ、1曲弾き通します。これが、素晴らしい演奏シーン。
ほのかに、しかし神々しく、家族を照らす「光」に、父は涙を流し、母はただただ呆然と見つめる。それはとってもある意味事件なのだけど、「感動の渦巻く拍手が〜〜〜」ではなく、あくまで淡々と描くのが、素敵なエンディング。

全体的に劇伴としての音楽はあくまで控えめで、生活の中の音が生かされた演出です。

いや、小泉今日子は役者です。歳をとっていい役者になるなんて、かっこいいですわ。でも、もしかしたら、もう少し彼女がコメディエンヌであれば、もしかしたら、もっと面白い映画になったのかもしれないなあ。バランスが難しいから、全然このままで十分なんだけど。
彼女が核な映画であることに間違いないだけに、欲目をだせばそうも思える。
もっとコメディになっていたら、どんな映画になったかな、と思っちゃう映画です。でも、それは監督の肌合いじゃないのでしょう。

なんかね、ちょっと車でアウトレットまで行ったくらいで、(そこで夫は働いていたりするんだけど)「こんなに遠くに来ちゃったんだから」とか言うのが切ないというか。「どこが遠いんじゃ! 家の中と近所だけがあなたの世界なの」って。
だいたい、息子がアメリカまで行って軍隊に入るって時に、ただ見送るだけ?
あたしにはできないな! そんな控えめすぎるお母さん。無理。あなたは何?って感じ。
言いたいことはいい、やりたいことはやり、引っ張ってくれる人なんか、待つ前にでかけちゃう、そんな私には、じれったくてしようがない。(だからといって、私が強い女かというと、?で、この映画の彼女は結構強いんだ)
リストラされて、それを家族にも言えず虚勢を張って、最後には心中しちゃうような男もとてもじゃないけど、許せない。(これは、夫の高校時代の友人でリストラ仲間)

と、思いつつ、そんなあたりで映画が大きく動き出し、怒濤の展開に押し切られ、見せられてしまう、腕は、さすがのキャリアと監督力だ。

観るつもりもないのにここまで読んじゃった、あなた。
最後の「月の光」のシーンだけでも、映画館でごらんくださいな。ぜひ(笑)!
by shes_inn | 2008-07-16 23:29 | 映画